声 明

2018年8月8日
一般社団法人日本女性医療者連合(JAMP)
代表理事 津田喬子

 一般社団法人日本女性医療者連合(以下JAMP)は、医療界のすべての組織において意思決定の場に占める女性の割合が高まることが、女性の医療者が能力を発揮しやすい環境を作ると考え、医師においては女性の比率が増えれば自ずと状況は変わるだろうと期待していました。

 しかし医師国家試験合格者に占める女性の割合が徐々に増えつつあった2003年頃、女性医師5割時代が来ることが期待されていましたが、その後約15年間女性の比率が増えないことに疑問を感じ、女性の参画を阻む要因を探ってきました。そのひとつが「医学部入試合格率の男女差」です。

 2017年8月と9月の2回にわたり、JAMPのトピックスとして、女性医師を「増やさない」というガラスの天井〜医師・医学生の女性比率に関する分析〜(種部恭子理事の論考)を掲載し、医学部入学時にゲートコントロールされている可能性を示唆しました。

 この度、2018年8月2日の讀賣新聞において、東京医科大学医学部医学科一般入学試験における女子受験者得点への恣意的操作が、JAMPが示してきた医学部入試の合格率の男女差のデータと合わせて報道されました。加えて、この事実に対して、女性医師のライフイベントによる労働力率低下が理由付けされたことに対しても、強い憤りを感じております。

 この度の東京医科大学の女子受験者得点への恣意的操作は、ひとしく教育を受ける権利および性別を問わず法の下に平等であることの権利の侵害であり、多くの女子学生の夢を砕き女性医師の意欲を削ぐ大変残念な結果をもたらしました。加えて、問題の本質である医療制度の課題を、女性医師の問題にすり替えられていることも遺憾です。

 これまでに多くのメディアから取材を受けてきましたが、JAMPはこの問題がジェンダーハラスメントにのみフォーカスすることで医療界に対立を生み、問題の本質を見据えた抜本的改革に至らないことを危惧しております。

 JAMPはこのような許されざる行為の背景を考察し、以下の2点への理解と実践こそが、女性医療者の活躍推進と日本の医療安全にとって重要であることを強く訴えます。

1) 過重労働・医師の犠牲の上に成り立つ医療制度の改革
2) ダイバーシティの推進およびジェンダーハラスメントの根絶

1) 過重労働・医師の犠牲の上に成り立つ医療制度の改革

 医師不足・過重労働は深刻で、多くの医師が過労死ラインを超えて働いています。誰かが育児・介護などで休むと他の医師の負担が増すのは事実です。また、突然の呼び出しに備えて待機し深夜であっても緊急対応をするという無報酬労働が、この国の医療費を吊り上げることなく医療制度を支えています。このような状況の中で噴出する不満は、ごく一部の女性医師のわずかな労働力低下に矛先を向けることにつながりやすく、今回も入学試験の点数操作の理由付けに使われました。

 医師の生活の犠牲と無報酬労働で成り立つ脆弱な医療の仕組みの問題を、女性医師のライフイベントの問題とすり替えることなく、男性医師も含めた働き方改革を推進しなければならないと考えます。

 今回の問題が明らかになったことを契機に、性別にかかわらず医師が健康を損なうことなく、意欲を持って働くことができる医療を維持するために、この国の医療のかたちについて国民的議論を行い、抜本的な医療制度改革を目指す段階に来ていると考えます。

2) ダイバーシティの推進およびジェンダーハラスメントの根絶

 女性医師の視点は、既存の医療の隙間を埋めるものであり、ダイバーシティ推進は医療安全や医療の質の向上につながります。医療界のすべての組織(大学、病院、学会、各種団体など)の意思決定の場の女性を半数にすることが望ましいと考えます。

 形ばかりの「男女共同参画」ではなく、組織全体が一丸となって改革を進めるためにはトップのコミットメントが重要です。大学や学会などの意思決定層を選考する方法を開示・検証し、多様なメンバーによるマネジメントが行われているかどうかを評価する必要があると考えます。

 また、ダイバーシティを推進するためには、組織に根深く存在するハラスメントを根絶する必要があります。

 女性への入学制限は、妊娠・出産・育児での制約により労働力率が下がることへの必要悪とされていますが、教育を受ける権利は男女を問わず憲法で保障されているものであり、女性というだけで入学を制限することは、重大な人権侵害です。

 女子医学生、女性医師の多くが受けているジェンダーハラスメントの実態も明らかにし、優秀な女性医師が意欲を失い現場から立ち去ることがないよう、徹底したハラスメント根絶の取り組みがなされることを求めます。